フラッシュ(通常はストロボと呼ぶことが多いので以下ストロボと表記いたします)を使ってスポーツを撮ると、ぐっと写真が魅力的になります。
初心者にとってはハードルが高いかもしれませんが、現在は中国製の高性能なワイアレス式クリップオンストロボがとても安価で購入できるので、金銭的なハードルはぐっと下がっています
これらの商品は手元で光量も調整できてとても優れています。しかもとても安価でおすすめです。
今回は電波式ワイアレス制御できるクリップオンストロボを使い、私が現場でどのように撮影しているかの基本、すべてをどういう風に決めているか説明いたします。
周辺の明るさを測る
まずは周りの明るさを測ります。私は単体露出計を持っていますので、少しでも明るい場合はそれで測ります。真っ暗な夜中は意味がないので周辺の明かりを測るためには使いません。
雪山での撮影では、ノートラック(誰も滑った跡がない、トラックがない状態。もちろん足跡とかもない、雪が降り積もったままの状態のこと)がもっとも良いので、撮影ポイントでむやみに歩き回って露出を測るようなことはできなません。単純に試し撮りをして全体の露出状態を判断します。
慣れてくると試し撮りしただけで、だいたいすべてが組み立てられます。
ストロボの設定はマニュアル
ETT等のオートモードは使いません。マニュアルで光量を決めます。
最新のクリップオンストロボだと、フル発光の1から1/128まで調整できます。また、照射角というものも20mm〜200mmまで調整できます。照射角は広角側(20mm〜)ほど広い範囲を照らし、光量はその分弱くなり(近くしか照らせない)、望遠側(〜200mm)ほど狭い範囲を照らし光量も強くなります(遠くも照らせる)。
あとで説明する被写体までの距離と、照らしたい範囲によってこれらを調整します。
シャッタースピードの上限は1/250ss
これはストロボ同調最高シャッター速度になりますが、カメラにより異なります。EOS−7Dだと1/250ssですが5Dですと1/200ssです。これより早いシャッタースピードだと写真の一部が暗くなったりします。
このシャッタースピードを上限として考え、これ以下のシャッタースピードで、自分が表現したい画にあったシャッタースピードを選びます。
ハイスピードシンクロ(FP発光)ですと光量が著しく落ちてしまいますので、被写体からかなり離してストロボを設置するこの手の撮影だと利用できないです。
ストロボの光量をマニュアルで固定してあるのならば、被写体へあたっているストロボの明るさは、シャッタースピードを変えても変化しません。変わるのはストロボの当たっていない部分の明るさ(光の量)です。
ストロボの光は一瞬なので、シャッターを長い間開けていても、影響を受けるのはその一瞬だけなのです。
つまり、シャッタースピードが早くなればなるほど、まわりや後ろなどのストロボが当たっていないところは暗くなりますし、遅くなればなるほど、明るく写ります。しかしストロボのあたっている部分(被写体)の明るさに変化はありません。
ただし、ストロボが当たっていないところの明るさがストロボより明るくなると被写体に影響してきます。ストロボの効果がなくなります。
私もこれを理解するまでに時間がかかりました。「ストロボの光量とF値とISO感度で被写体を適正な明るさにして、シャッタースピードで回りの見え方を変化させる」と簡単におぼえて、あとは実践しておぼえていきましょう。
どういう風に写るかテスト撮影
先程説明したように、ストロボ設置前に試しに撮ってみて、自分の撮りたい写真になるように露出を決めます。露出やISO感度に関しては最終的な仕上がりを予想して、以下のように考えながら決定しています。
夕方—まわりを若干暗くし被写体を際立たせる
真っ昼間ではクリップオンストロボ程度の光量だと、うまく撮るのは難しいですが、夕方ならかなり効果的に良い画になります。
夕日を入れた画や、夕日が沈んだあとのマジックアワーは、若干暗めに(アンダー)露出をしたほうがきれいになります。この時間帯は人間の目だと明るく見えていますが、数字的には結構暗くなっていますので、クリップオンストロボ程度の光量でも被写体が浮かび上がる印象的な写真が撮れます。
夕日を入れ込む際はなるべくF値を絞り込んで(F値11〜16程度)、太陽の形が出て光の線(光ぼう)がきれいに出るようにしながらISO感度とシャッタースピードで露出を決めます。
夜—まわりを真っ暗にする
露出をきめるのは簡単です。低感度ISOでシャッタースピードをもっとも早い1/250にすればたいていまわりは真っ暗です。ナイターの明かりくらいだったら簡単に真っ暗になります。
ストロボを置く場所と光の量に注意すれば、実はとても簡単にこの手の写真は撮れます。
夜—まわりがどんな様子かわかるように写す
夜でもまわりがどんなところなのか写し込みたい時はカメラのISO感度を1600や3200に上げてシャッタースピードを1/60程度にすれば、ナイターの明かり程度でもまわりが映り込みます。
この写真はクリップオンストロボを2つ使って、上と下から被写体に向けています。ゲレンデの様子も写したかったのでISO感度を1600まであげて、まわりがぶれない程度のシャッタースピード1/60で撮っている。
夜—まわりが写り被写体が透けて見える
これは三脚を使います。長時間露光してまわりの状況をちゃんと写し込みながら、被写体もストロボにより写します。
長時間露光ですので被写体とかぶっている部分も写し込まれるので被写体が透けて見えます。フィルム時代にISO感度があまり上げられず、しかもまわりも写したい時によくやっていました。しかし前述したように、最近はISO感度を簡単に1600や3200くらいまで上げられて、ある程度のシャッター速度でまわりも写し込めるので、よっぽどのことがない限りこの方法で撮ることはなくなりました。
あと、この手の写真は、ライダーがあまり好まみませんでした。
この写真は札幌の夜景をきれいに写すのと同時にしぶきをきれいに出したかったのでシャッタースピードを下げて撮っている。これは2灯ストロボを使っているが、奥からのフラッシュがしぶきのためで、手前のストロボが被写体のためのライトだ。
ストロボの設置
ストロボの設置位置や光量の調整が画作りにもっとも影響を与えます。
私が絶対やらないことが1つあります。
ダメ!—カメラ側から発光しない。
私は絶対にカメラの頭にクリップオンをつけて撮ったり、カメラのすぐ横にストロボを置いて同じ方向を向いて撮るようなことはしません。
光と影の表現ができない、とても単調で面白くない写真しか撮れないからです。これはどんなモノを撮っても同じことが言えます。印象的にしたければカメラ側以外からストロボを向けます。
どうしても自分の近くにしか置く場所がなければ、被写体に持ってもらったりしています。
角度
今説明したようにカメラ側以外からストロボを向けます。その置く場所と被写体との角度によって写真の表情は劇的に変わります。
雪しぶきを表現したければ逆光
被写体の後ろにストロボをおきます。光がしぶきにあたりきらめいて見えます。
なるべくならその光源(ストロボ)は写らないほうが良いですが、写っていてもカッコよければ私はあまり気にしません。
サイドからの光が基本
基本のライティングです。被写体に光が当たるように右か左のどちらかに置きます。右に雪を蹴散らすように滑るなら左から光を当てます。雪で光が被写体に当たらなくならないようにします。
そして被写体より前方にストロボを置く方が被写体に光があたっている部分が多くカメラに写るので良いのですが、思った通りの場所に被写体が来るとは限りません。
具体的に写真を見てみましょう。
1.被写体とカメラの間にストロボがある写真がこれです。間違いのない、きれいな写真に仕上がっています。
3.被写体の斜め後方にストロボがある写真も見てみます。
明らかにストロボをおいているところが被写体より後ろです。撮った時は「失敗した!もう少し手前にストロボをおいておけばよかった」と思いましたが、PCで詳細に見てみると雪煙に光があたり、被写体がいい具合に暗くなってあやしい感じでこれはこれで良い写真です。結果的には雑誌の表紙にも選んでもらいました。
複数のストロボ
写真によっては何台もストロボを使うことがあります。
「雪のしぶきも表現したいけれど被写体も見えるようにしたい」「ライダーに光を当てるけど後ろの建物もかっこいいから浮かび上がらせたい」「ライダーは普通の色で、まわりをマゼンタにしたい」なんて時は複数台ストロボを使用します。
上の写真も後ろからの写真がメインで、それだけで撮りたかったれど手前が真っ黒になりすぎていたので補助的に手前にも光を当てています。
距離と光量
ストロボが写真に写りこまないように(業界用語で「バレないように」とも言います)撮りたいので、ある程度被写体から距離をおいてストロボを設置します。
可能であれば単体露出計で被写体の来るであろう場所の露出を測りたいのですが、ノートラックに足を踏みこむわけにはいきません。多くの場合はストロボの露出を直接測らずに(測れずに)、その場で距離や光量を決定します。それらは「感と経験」に頼ることも多いですが、ある程度は計測して決めています。
距離は「ストロボのガイドナンバー ÷ レンズのF値」で計算できます。現場では計算なんかしている時間はありません。私はそれぞれのストロボに換算表を作って現場に持っていっています。
5m、7.5m、10m、15mと4パターン作っています。下は5mの表です。照射角によってガイドナンバーが変わってきますので、それぞれの距離の中も24mm、50mm、105mm、200mmと4つの照射角のパターンで表を作っています。
レンズのF値とISO感度でフラッシュの出力をどうするかひと目で分かります。
たとえば、被写体から5mの位置にストロボをおいて、ISO感度200、レンズのF値5.6の場合、クリップオンストロボの照射角50mm、出力1/4にして撮影します。
ただし、この表は明るさの目安です。「これぐらいの光量だったら被写体に光が当たるだろう」くらいのことがわかれば良いと思っています。
光が弱すぎて当たっていない!とか、逆に明るすぎて真っ白く飛んじゃった!なんてことを回避するためだけの表だと考えています。
一発狙いか?連射で撮るか?
最近のクリップオンストロボだと、ある程度光量を抑えれば連射も可能になります。
“写真道”的には「1ショットで決定的瞬間を撮れ!」みたいな考えになるかもしれませんが、私は求道者ではなく良い写真を撮りたいだけなので、連写してその中から良いショットを選びます。
クリップオンストロボの光量を1/16とか1/32くらいまで落とし、可能なら外部電源をクリップオンストロボに装着すれば、秒間7コマくらいの連射なら追従してくれます。このように条件が許せば連射で撮ります。
フル発光しなければならない状態でしたら、あきらめて1射必勝でいきますが、、、
シューティング
上記の方法ですべてを決め、テスト発光&撮影して、本番に挑みます。
クリップオンストロボとカメラのトランスミッターの間に障害物があったり、距離が離れていると電波式とはいえ同調してくれないことが、野外だとよくあります。テストを繰り返し間違いなく発光するかよく確認してみることをおすすめします。
実際の手順
簡単にどういう風に撮っているか見てみましょう。
ライダーと打ち合わせして、どこで何をするか決めます。そして画角を決めて写真を撮ってみます。夕方で、まだ少し明るい状態でしたが、薄暗いところで滑っているライダーをストロボで浮かび上がらせた写真にしたかったので、全体的に暗めの露出に設定しました
クリップオンストロボを下の方からライダーに向かって当たるように設置しました。先程の距離換算表を見ながら距離とストロボの出力を決定。テスト撮影をします。
この時、ライダーに明るくなった部分にアクションのピークを持ってきてもらうように指示します。
本番です。夕焼けもなく、ただ単に薄暗くなった夕方で、普通に撮っても何も面白くありません。しかしクリップオンストロボを使うことによってとても印象的な写真になりました。