初心者と話していると、シャッタースピードは何となく分かるけれど、絞り値とかF値になるとよくわからないと言われます。数字が2.8とか5.6とか意味不明な小数点が付いているのも分かりづらい理由のような気がする。
しかし絞りを正しく理解し、使いこなせれば写真表現が一段とレベルアップする。覚えることはそんなに多くないので、しっかり理解してほしい。
「絞り」とはカメラに入る光の量をレンズが「しぼる」こと
写真を適切な明るさに撮るためには、画像素子に適切な量の光を届けなければなりません。そのためにシャッタースピードで光は入る時間を決め、「絞り」で入る量を決めます。その「絞り」の単位を絞り値またはF値とよんでいます。
この仕組はレンズの中に何枚かの羽根のような非常に薄い板が組み合わさっていて、それらがレンズに入る光の量を多くしたり少なくしたりしています。レンズを正面から見ると下のようになっています。
絞りで左右される2つのこと
絞りが直接関わってくる大きな問題が2つあります。
まずは単純にこの2つをおぼえて、状況によって対応しましょう。
1.背景をボケさせるー被写界深度の調整ー
絞りを開く、つまりF値を小さくするとピントが合っていないところがボケます。
逆に絞りを閉じる、つまりF値を大きくするとピントが合っていないところもはっきり写ります。
難しい言葉でいうとこのピントが合っている深さを被写界深度と呼びます。ピントが浅い状態を被写界深度が浅いと言い、逆に広い場合を被写界深度が深いと言います。
被写界深度の調整には被写体との距離も重要になります。
被写体がカメラから離れているとボケにくくなりますし、近くなるとボケやすくなります。
実際の撮影現場でボケをコントロールするためには以下のように単純化しておぼえておきます。そして試し撮りなどして体感してみてください。
まわりをボケさせたい! → F値を開く(数字を小さく) → 被写体に近づく
まわりもシャープに! → F値を絞る(数字を大きく) → 被写体から離れる
2.シャッタースピードの調整
シャッタースピードの話で、被写体を止めたいなら早いシャッタースピード。ブラしたいのなら遅いスピードと説明しました。
シャッタースピードが早いと入ってくる光も少なくなるので、その分絞りを開けて光を多く入れなければなりません。逆に遅い場合は光が多く入ってくるので絞りを絞って光の量を少なくしないといけません。
シャッタースピードとF値は相互関係にあって、こちらも以下のように大まかにおぼえておきます。
まわりもシャープに! → シャッタースピード遅く → F値を絞る(数字を大きく)
もちろんISO感度などもあわせて細かく設定をしますが、雪山だと明るさが急激に変わることがよくあります。その際、感覚的に反応するできるよう、上記のようになるべく簡略化しておぼえておきます。
カメラによっては操作するダイヤルの位置が違ったりしてすばやく反応できない場合もあります。プロスノーボーダーがボードを自分の足のように操作出来るのと同じように、カメラマンはカメラを自分の目と同じように操作出来るようになりたいものです。
F値の単位
人間が裸眼で感じている明るさがF1です。そこから光(明るさ)が半分になる単位を1段と言います。1段絞るとか1段下げると言います。
逆に光(明るさ)が倍になることを1段開けるとか1段上げると言います。
F1の1段絞った値がF1.4、そこからまた1段絞った数字がF2。このように続いていきます。逆にF2から1段開いた値がF1.4になります。
1段を1/3にわける。
より詳細な設定をするためにカメラは1/3段づつ設定出来るようになっています。カメラによっては1/2段に設定出来る機種もありますが、一般的に1/3段づつになっています。
カメラではだいたい上記のようにF値は刻まれています。
レンズの名称に付いているF値は最大絞り
「EF70-200 f4 IS USM」という名称のレンズのF4とはそのレンズの最大絞り、つまりこのレンズはf4が一番明るくて、それ以上は明るくできませんよってことです。この数字が小さいほどレンズは大きくなり、値段も上がります。描写性能も上がると考えられています。
最大絞り状態のことを「開放」といい、「開放で撮る」などと言ったりします。
F値の違いによるその他の影響
開放付近だと描写が甘くなる。
開放だと描写が甘くなる事があります。「甘い」とはピントがずれているように見えてボケボケしていることをいいます。他に「ねむたい」とか「解像してない」などともいいます。
多くのレンズは1〜2段くらい絞った状態でその甘さがなくなり、キリッと解像します。
高級レンズになると開放からバリバリに解像するレンズにもありますので、よく検証してから開放での撮影をしましょう。
開放付近だと周辺光量が落ちる&画質も落ちる。
開放で撮影するときレンズの隅々まで使います。レンズの性能は隅よりも中心のほうが高いです。絞って撮ればレンズの中心、性能が一番高いところだけ使うことが出来るので全体的に良い画像にすることができます。
絞りすぎても画質が落ちます。
極端に絞りすぎるとまた画質は低下します。大体f11あたりから気をつけるようにしています。
難しく言うとと回折現象と呼びます。簡単に説明すると、入ってきた光(映像)が画像素子に行かないで絞り羽根の裏に戻ってくる現象です。絞りを開いている場合はその影響が少ないのですが、絞っているとその影響が大きくなるのです。そのため絞って画質が低下することを「小絞りボケ」といったりもします。
パンフォーカスという、すべての部分にピントが合ってる状態にするには、かなり絞り込まなければならない時があります。この画質の低下を考慮に入れてf22くらいまでは絞りますが、それ以上必要なときは画像を確認しながら対処します。
絞ると画像センサーやレンズについた汚れが写ります。
外でレンズ交換をするとどうしても画像センサーにホコリ等が付着します。絞りを開いて撮ると、ゴミもボケるので写りませんが、絞るとそれらが写ります。
青空なんかにごみがあるとかなり目立ちます。写ってしまったらしょうがないのでPHOTOSHOPで泣きながらゴミを取っていきます。被写体にゴミがかかっていると本気で泣きます。
絞るとゴミが写るので、普段から画像センサーやレンズはきれいにしておきましょう。
最高画質はf5.6近辺
レンズの性能をもっとも発揮できるのはこの絞りです。開放から1段から2段程度絞った辺りです。
絞りは状況にあわせて色々設定しますが、このf5.6を基準に開いたり絞ったりしながら画を作れば、画質の低下をまねかないです。
F値の大まかな決め方
王道的な絞りの使い方を説明します。もちろんセオリーに反した使い方も間違いではありません。参考にしてください。
f1.4〜2.8:フォーカスとボケで対象を際立たせる。ポートレイト撮影等
ポートレイト撮影などで周りの景色をぼかして撮りたい人や物を際だたせるのに使います。この明るさは単焦点レンズにしかない。
上記のポートレイトは彼の強い意志を表現するために瞳のみにピントを合わせ、それ以外をボケさせたくて開放付近で撮った。開放で撮りたかったのだが、ピント面はしっかりと解像させたかったので1と1/3段絞って撮影した。
f2.8〜5.6:一般的な使用域。 Life Style撮影等。
この辺りのF値だと、シャッタースピードが稼げるし、いい感じにまわりがボケて、被写体もシャープに写る。
上の写真では人にはすべてピントが来ているが、後ろのボードは若干ボケ始めている。遠くの山はもっとボケていて、人物がいい具合に引き立っている。
「大三元」や「小三元」と呼ばれるズームレンズはこの辺りの絞りが開放だが、これらのレンズは性能が良いので開放から使用しても問題ない。気になれは若干絞ったf5.6辺りで撮影するのが無難である。
もっとも使いやすいf値なので、特に意図がなければこの辺りに設定して撮るのがよい。
f5.6-11:すべてがシャープに写るスノーボード撮影での常用域。
レンズの性能がもっとも発揮される絞り。風景を撮れば全面にピントがきて、とてもシャープに写すことが出来る。もちろん、スポーツを撮るのにも適している。被写界深度もいい具合に広いので、被写体がある程度前後してもピントが外れない。
北海道の雪山での晴天は、シャッタースピード1/800s 絞りf8 ISO100で適切な値になる。
曇りの日でもf5.6より絞って撮影しない。写真が暗く写っても、ある程度なら後で修正できるが、ピントが合っていないのは救いようがない。そのためある程度広い範囲にピントが来るような絞りで撮影するようにしている。
F11〜:パンフォーカス用。光芒(こうぼう)の表現等
どピーカンで太陽入れて撮りたい時に、太陽からきれいに線が出ているように撮りたい、ギラリとした感じにしたい時にはガッツリ絞り込みます。この太陽から出てくるきれいな線のことを光茫とよびます。
回折現象で画質劣化しますし、レンズがの汚れも写り込んでしまうので、よっぽどのことがない限りここまで絞り込みません。